サンフランシスコ・エグザミナー紙
1985年6月2日
信仰の自由か、名誉棄損か?
ドン・ラティン(エグザミナー紙宗教担当記者)
オークランド発−世界中に3万人の信奉者を有する初老の中国人聖書教師ウイットネス・リーにとって、この係争問題は信仰の自由と彼の名誉を保護するための彼の法的権利である。
福音主義異端監視グループの一つである、バークレイ市スピリチュアル・カウンタフェイツ・プロジェクトにとっては、本件は言論の自由と、“ある者の教えが訴訟の判決を待つことなしに異端であると主張する”ためのクリスチャンの一つの権利である。
この二つのキリスト教団体間の異常な法廷闘争は、明日もアラメダ郡上級裁判所において続けられるが、発端は“ウイットネス・リーの奇妙な教えと彼の地方教会”というドイツでの1979年の刊行物にまで遡る。
スピリチュアル・カウンタフェイツ・プロジェクトの調査員ネイル・ダディの著したその本の主張するところによれば、リーは“一個人として行動したり考えたりすることは、霊的でなく、罪深いことであると教えている”と言う。同書はまた、リーが“公の場所で教会員を罵ったり、あるいは彼らが‘流れの中に’いないでサタンの影響下にいると称して彼らを辱めている”と述べている。
2つのキリスト教団体が一書物に関して闘争!
ウイットネス・リーは、同書が中国からカリフォルニアにわたって存在する400 の教会信者たちの精神を操る一人の霊的独裁者として自分を不当に記述していると非難し名誉棄損の訴えを起こした。
1962年に台湾から南カリフォルニアへ渡った80歳のウイットネス・リーの信奉者達は、北カリフォルニアに8つの教会を設立した。彼らは同州全域で概算2千人の教会員を持っている。
この名誉棄損訴訟における公判前の法的準備には4年以上の歳月がかけられ、キリスト教異端監視グループは法的費用として25万9千jを要した。去る3月、この公判予定日に、前述のスピリチュアル・カウンタフェイツ・プロジェクトが多額の借金の為、公判を乗り切るためにさらに必要な20万jを用意できないとして破産の申し立てをした。
そのグループの特別プロジェクトの指揮者ビル・スクワイアーズは、名誉棄損という脅しと法外な法的費用のために、キリスト教グループと非宗教的ニュース・メディアの両方による新興宗教活動に関する調査が妨げられつつあると言った。
現在では存在しないクリスチャン・ワールド・リベレイション・フロントの1973年の一分派であるカウンター・フェイツ・プロジェクトの設立者の一人スクワイアーズは“宗教活動を評価する者は十分に考える必要がある。すなわち、自己弁護のために彼らと同じくらい多額の金を用意しなくてはならない”と言う。
同グループは募金趣意書の中で、依然として現存する2被告に対して続けられている名誉棄損の訴えを避けるために、連邦破産法第11条に基づいて会社更正手続きを申請した。
著者ダディ及び同書のスイスの出版元、シュヴェンゲラー・フェアラークの両原告は、レオン・セイラニアン臨時判事を前にして、先週当地で行われた“争われざる公聴会”において代理人を立てなかった。スイスの出版社とダディの両者ともその通常ではあり得ない法的手続きに際して、自分たちを弁護する道を選択しなかった。
かくしてリー側の法廷代理人であるサンフランシスコのチャールズ・モーガンが選定した証人は一人も反対尋問を受けなかった。“反対意見はなされなかったが、我々は一つの裁定を取得できるということを、なお裁判官に納得してもらわねばならない”とモーガンは言い、“我々がおもに望むことは真実を記録にとどめ、かつ裁判官に同書が名誉棄損を犯していると判決してもらうことである”とも語った。
公判を傍聴していたスクワイアーズは、同グループとしては今でもその文書が“誰をも中傷してはいない”と感じていると言っている。“裁判が公平ならば我々はそのことを法廷において証明できると思っている”とスクワイアーズは言う。“我々は自分を弁護することはできないし、彼らは今や一方に偏した裁判を行っている。我々にできることはただそこに座して聴くことだけである。”
同組織は連邦破産法に基づいて操業を続けることができる。同組織は合衆国破産法廷が、例えば未払い弁護士費用8万2千jのようなその他の借金の決裁を法廷が考慮する際に、リーに支払うべき額の設定を合衆国破産法廷に依頼した。
ダディの原稿の編集・翻訳版が“神−人、ウイットネス・リーと彼の地方教会の調査”という表題で、インナー・ヴァーシチー・プレスから合衆国で後日発行された。
金曜日、法廷内の廊下におけるインタビューでリーは、同書のドイツ語および英語版のために、潜在的な新しい教会員が彼の教会への参加を阻止された、と述べた。
“‘神−人’は、私の名誉を棄損した”と、彼の妻パオ・イェーの隣に立ったリーが述べる。“私の8人の子供達と22人の孫たちも皆苦しんだ。”
明日法廷で証言が予定されているリーは、同書が発行されてから10人の教会員の両親が“目覚めさせられて”、彼の諸教会からその子供達を連れ出したと言う。
リーが本拠地とするアナハイムにある教会の一長老、ユージン・グルーラーは、多くのキリスト教関係書店が、“神−人”の出版以来、リーの著作の取り扱いを中止したと言う。
“彼らは私たちをジム・ジョーンズのように描いたが、私たちはそのようなカテゴリーに入らない”と、彼は言う。
リーの経歴は、共産党が中国本土を掌握したときに捕らえられた中国人伝道者ウォッチマン・ニーの同労者としてスタートした。ニーは殉教者として獄死した。
ウォッチマン・ニーは、宗派、すなわちキリスト教内での分派は決してあってはならない、また各都市には唯一の教会があるべきである、と教えた。ウイットネス・リーは共産党による政権交替後はその教えを台湾で続けてから、1962年に南カリフォルニアへ移住した。
グルーラーは、アメリカ合衆国におけるこの布教活動の参加者は7千ないし8千人であると言う。サンフランシスコ、バークレイ、サンホセ、デイヴィス及びヘイワードにはウイットネス・リーの諸教会がある。グルーラーはまた、これら地方教会の間には何らの公式な組織的あるいは財政的つながりはない、と語った。
(注)この裁判でリー側を擁護した宗教学者J.Gordon Meltonはその後日本のオウム真理教などを擁護し、彼らの負担で来日したこともある人物である。例えば、エホバの証人やサイエントロジーを"カルト"としてではなく、"新しい宗教運動"と評価する傾向がある学者である。またこの裁判で臨時判事であったLeon Seyranianはその専門が不動産登記や商法であって、決してカルト宗教問題では無いことも指摘されるべきである。